2016-09-04
鍼灸あんまマッサージ指圧師に出来る寄り添い方

今回、精神科医の原敬造先生を講師にお迎えし、東日本大震災津波被害による被災者への支援活動を通じて経験されたことや、今なお続く住民の苦悩について、また鍼灸あんまマッサージ指圧師にできる寄り添い方や安心感の伝え方をお話頂きました。

3/13鍼灸セミナー原敬造氏 2011年3月11日。震災が起きてすぐに原先生が取られた行動は、事細かな被災地の状況把握でした。被害地域の特定と状況、被災人口、死者数、行方不明者数等の情報を集めた上で、早急に“こころのケア”が必要になると考え、県(宮城県)に呼びかけました。そして宮城県石巻市にNPO法人からころステーションを開設され、5年経った今も復興中の町と人を支え続けておられます。災害が発生した際、広範囲に及ぶ地域の正確な状況把握を行うことは大変難しいように思います。

 原先生の講演を聴いて“こころのケア”で必要なことは正確な状況把握から必要な重層的支援を導き出すこと。そして時間をかけて人と人の輪をつなげていくことだと感じました。からころステーションでは[健康な人]を対象とした疾病予防の講演会やカフェイベント、[ストレスを抱えている人]を対象とした電話相談窓口の設置や傾聴・相談会から環境整理、[精神疾患を患っている人]を対象とした訪問ケアなどアウトリーチを行うことで、病状の悪化予防やQOL改善を目指しておられます。医師だけでなく看護師、臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士など約20名のチームアプローチによって、一人一人に合った細やかなサポート態勢が成されていることも重層的支援の鍵を握っているように思います。今もなお、震災・津波によって刻まれたこころの傷は癒えず、独居高齢者のアルコール依存や独居男性の社会的孤立が危惧されています。傾聴や相談会といった直接的なアプローチだけでなく独居男性対象に料理教室などの生活スキルアップイベントを開催し、仲間作りや地域を越えたコミュニティー作りを主とした取り組み(名付けて“おじコロ”)を行われています。“治療”とは主訴の解消を目指すだけの手段ではなく、自然とあふれる感情の交流、人と人の和をつなぐ空間のようなものだと感じました。

 また、緊急時の支援活動と聞くと短期的なケアやサポートが印象的ですが、精神的なケア・サポートを行っていくためには、長期的で状況変化に対応した柔軟な取り組みが求められ、医療関係者その他スタッフ間のミーティング・カンファレンスが重要だと感じました。

3/13鍼灸セミナーのようす 鍼灸あんまマッサージ指圧師には医療チームとしての経験は極めて少なく、被災現場における緊急時の対応や医療カンファレンスに加わることが可能か否か?なにより被災者の方の生命・健康にとって有益な役割を果たせるのか?鍼灸あんまマッサージ指圧師が必要とされるのか?その活動時期は?人のために、困っている誰かの力になりたいという気持ちを最大限に生かせるためには?この課題には、日常の臨床技能意外にもトレーニングや研修を重ねる必要性も感じました。

 東日本大震災では実際に、私たちにできる役割として身体の治療や傾聴はスキンシップをとりながらのケアとして喜ばれていました。原先生は精神科医として、わずか数分の診察時間で身体・精神状態・家庭環境・社会的環境の把握と展望を判断され治療されています。多くの会話から導き出される事柄も貴重で安らぎの時間となりますが、短時間で必要な情報を確実に聴取する“ワザ”は温かく心身に溶け込むような原先生の人柄からも感じ取ることができました。
また予断を許さない状況のなかで大勢の救済にあたることをふまえ、取り組むべき課題であるように思います。

 今回の講習を終えて、いま一度あらゆる災害に備えて私たちにできる最良の支援を考えて行かなければならないと感じました。東日本大震災により被害に遭われた方々の心が一刻も早く癒されて行くことを祈ります。



                    鍼灸師   前川 典代(2016年4月)

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