2019-07-18
八尋優子先生より寄稿

NPO法人鍼灸地域支援ネットのメルマガ読者のみなさん、こんにちは!
熊本県で夫と鍼灸院を開設しております八尋優子と申します。鍼灸の仕事と3歳児の子育ての傍ら、薬物依存症のリハビリ施設で鍼治療のボランティアをしています。

八尋優子氏画像

2016年、出産予定の2か月前まで京都府で鍼灸専門学校の教員をして、出産予定の1ヵ月前に熊本へ引越しをしました。引越しから2週間後に出産をし、そのまた2週間後に熊本地震に遭いました。住居などに大きな被害はありませんでしたが、自宅は断水が1ヵ月続きました。不定期で来る給水車に連なる行列に並んで分けてもらった水を沸かし、子どもを沐浴させ、その残り湯でタオルを濡らして自分の体を拭いていました。はじめての産褥期はすこし壮絶だった様な気もしますが、今になって考えると医療者としては良い経験になったと思っています。妊娠出産と産後の大変さ、必要な物が揃わないことについてあんなにも不安になったのは、33年の人生の中であの時だけだったと思います。しかし、産後の貧血と睡眠不足でふらふらになりながらも、オキシトシンが出たり…地震にくじけてはならぬとアドレナリンも沢山出ていたのでしょう。ふと悲しくなる事も多かったですが、しなやかに乗り越え、3年が経った今となっては「あまり覚えていない」というのも正直なところです。

熊本地震では多くのボランティアの方が助けに来て下さいました。しばらく疎遠になっていた友人からも、励ましのメッセージや赤ちゃん用品などが届きました。京都で知り合った鍼灸地域支援ネットの日比先生達も熊本へ来て下さり、アメリカ在住の日本人鍼灸師で私の耳鍼の師匠である中野先生も連れてきて下さいました。色々と大変だったけれど、おかげさまで現在は元気に過ごしています。人は皆お互いに支え合って生きていることを感じました。個人を尊重しながら、助け合いもしやすい社会を作っていかなければと改めて考えました。

今回は、3歳になった息子の通う保育園での出来事を紹介させていただきます。

2019年5月のある日、息子は高熱を出して保育園をお休みしました。熱が下がり登園した日のお迎えの時、息子の手足には発疹が出来ていました。保育士さんにも見てもらい「虫刺されやあせもかもしれないけど、手足口病も流行っているので病院へ行ってください。手足口病だったら、すべての発疹がかさぶたになるまで1週間程度お休みをしてください」とのことでした。小児科に着いた頃には、すっかりとそれらしい小さなプツプツが増えていました。案の定、医師から「手足口病」の診断をもらいましたが、「保育園は行っても大丈夫!手足口病は熱が下がったら登園してもいいよ。毎年、熊本の小児科医が感染症対策の授業を保育園の先生たち集めてやっているから、知らないはずがない。断られたら電話して。でも一応これ持って行って説得してみて!」と、厚生労働省の作成した「保育所における感染症対策ガイドライン」のコピーを渡されました。その時は、「既に発熱で仕事にも影響が出ているのに、また休み!?それは困る。でも、この先何年もお世話になる保育園と揉めるのも嫌だし…。ひとまず素直に保育園の指示に従ってみるか…。でも、そんな理由で病児保育を利用したら、他のご家庭にご迷惑かしら。やんわりと、保育園に交渉してみよう!」そう考えて再び保育園に行きました。色々と交渉するも、担任の先生は「園の登園基準に従って休んでください。」の一点張りです。穏やかにやり過ごそうと思っていましたが、「他の保護者さんの意見もあるので。」「園の決まりなので。」「嘱託医は園の基準に問題ないと言っている。」などと言われ、「他の保護者の偏見に屈して、見た目の問題で手足口病を休ませて、そんなことが教育者として許されるんですか!」と最終的には少し怒ってしまいました。しかし、担任の先生を責めたところで解決しないと考え、その場は引き下がる事にしました。

あらためて、手足口病について調べると「手足口病は、学校で予防すべき伝染病1~3種に含まれていない。主症状から回復した後もウイルスは長期にわたって排泄されることがあるので、急性期のみ登校登園停止を行って、学校・幼稚園・保育園などでの流行阻止をねらっても、効果はあまり期待ができない。本疾患の大部分は軽症疾患であり、集団としての問題は少ないため、発疹だけの患児に長期の欠席を強いる必要はなく、また現実的ではない。通常の流行状況での登校登園の問題については、流行阻止の目的というよりも患者本人の症状や状態によって判断すればよいと考えられる。」(国立感染症研究所感染症疫学センターHPより抜粋)と記載がありました。

学校や会社の方針がおかしいと思っても、末端の職員には変えられない事があります。日々の現場の業務に追われ、振り返って反省する時間も無いかもしれません。しかし、そんな環境でも最低限の事が確保できるように、条令や法律、医療ガイドラインがあるのではないでしょうか。科学的に根拠がない隔離を推進するようなことは、許すことができません。最新の感染症ガイドラインを無視した園の基準が残っていくなら、必要な感染症対策を怠る可能性も高くなります。考えれば考えるほど、腹立たしくなり、熊本ではまさにハンセン病の差別被害家族裁判がクライマックスを迎える頃でもあり、どうしてこの熊本で!?という気持ちがメラメラと燃え上がりました。熊本県と熊本市の担当者に電話をして、何とかしてほしいとお願いしたところ、「園長に直接伝えます」「自治体に強制力はないけれど、確かにガイドラインの紹介はしています。」とのお返事を頂きました。園長先生からは「お休みは強要していない。お願いしているだけ。」という、なんともちんぷんかんぷんな回答がありました。保育園の姿勢に現場の先生が困惑してしまう様子が目に浮かびました。担任の先生に怒ってごめんねという気持ちと、それでもやっぱりちゃんとしてほしい気持ち、色々と考えました。

今回の件、SNSで発信すると、日本の各地で同様のことが起こっているようでした。皮膚症状で感染力を判断するのはナンセンスで、差別や偏見を助長します。適正でない登園拒否は、仕事をもつ親にとってかなりの負担になります。親の負担が悲しき怒りに変わり、児童虐待として発散されることもあります。

医療従事者は、最新の情報を得ておく必要がありますし、周囲が間違っている時は是正する努力をしなくてはなりません。弱っている人が助けられ、また誰かの役に立ちたいと希望を持てるような、みなが暮らしやすい社会になるように、一歩ずつの努力が必要だと感じました。

小雀斎漢方針灸治療院 八尋優子

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