災害に負けない事業をつくる
~第5回京都府災害鍼灸マッサージコーディネーター研修オープン講座報告~
鍼灸地域支援ネット 理事 嶺 聡一郎
大規模災害が起きた時、まず自分と家族の身を守ることが全てに優先されます。次に、隣近所の人たちや友人と助け、助けられ、救援がやって来て、被災地が一旦の安定を経過した後、生活再建のプロセスが始まります。そこには、生活の糧を得るための「仕事」の再建も含まれます。鍼灸師であれば、開業・勤務の別なく、治療院や往診の再開をしなくてはなりません。
東日本大震災以降、災害後も事業を続けるための計画「業務継続計画」(BCP: Business Continuity Plan)を策定する企業は増えています。鍼灸治療院の多くは個人事業形態ですから企業のフォーマットをそのまま使うことはで難しいかもしれませんが、被災後の治療院継続の準備という視点は、我々にも重要なものです。
今回の京都府災害鍼灸マッサージコーディネーター研修では、京都大学防災研究所の牧紀雄教授をお招きし、講義とワークショップでBCPの考え方を伝えていただきました。
災害となると、人身を別とすれば、すぐにイメージされる事業上の損失は建物や機材、資材といった「現物の損失」になります。しかし同時に、これらを失うことは「事業により将来得られる利益の損失」ともなり、被災後の生活を脅かします。
BCPは、この利益の逸失を防ぐために、発災時の事業への影響の想定、それを見越した資材や機材、カルテや帳簿類の分散保管、従業員の動員可能性の把握等を平時から計画しておくこと、被災後どれくらいの期間事業がなくとも生活でき、いつまでに事業を復旧するかとその手順を、あらかじめ決めて実行できるようにしておくことが要諦になります。
同時に、災害時の危機管理目標は事業継続そのものだけではなく、事業によって社会的責任を果たすこと、社会的信頼を守ることの2点だというお話には、医療事業としての鍼灸治療院の責任を認識させられました。
2グループに分かれたワークショップでは、「災害が起きたら業務にどんな影響が出るのか?」、「いつまでにどのように業務を復旧させるのか?」、「そのためにBCPに向けたどのような対策をとるのか?」を中心に、具体的な懸案事項を内容によって仕分け、対策を考えました。
ワークショップを通じて見えて来たのは、衛生上水は必要ではあるものの、インフラ依存度が低く、少ない資材で業務ができる鍼灸は、他の職種に比較すると災害の影響を受けにくいということでした。被災を想定して資材やカルテ、会計資料を分散保管するなどの準備をしておけば、人的被害がなければ治療自体は継続可能というのは、鍼灸の強みです。
一方で、患者さんが方々の避難所へ散ってしまったり、2次避難、3次避難で遠くへ行ってしまうとなると、事業特性として地域人口への依存性が高い鍼灸は、新規に患者さんを得る努力をしなければ、事業継続は難しくなることも分かりました。
被災地を鍼灸で支援することもある時期までは有効ですが、支援者はいつも、いつまでも、そこに居られるものではありません。その地域で治療をして来た鍼灸師が地域の患者さんを治療するのが自然であり、地域の鍼灸師の事業継続が、最終的な地域復興に繋がります。
自分の被災においてはもちろんですが、被災地支援のためにも、BCPの考え方が大切になることを改めて学びました。