2019-06-23
被災地を守る地域連携のあり方

内藤万砂文先生に聞く
「被災地を守る地域連携のあり方」

 今回、内藤万砂文先生がお住まいの新潟県長岡市を訪問し、先生がこれまで心血を注いでこられた地域医療連携と災害医療の体勢作りについて、当NPO理事の日比が突撃インタビューをしてきた。

内藤先生

 まず、内藤万砂文先生のお人柄についてお伝えしたい。
 『災害医療ACT研究所』で講師をお勤めの内藤万砂文先生は、『災害医療コーディネーター研修』で、グループワークのファシリテーターとして、「〜こんなこともあり得ますよね・・・」と、とても穏やかな口調で、受講者自身が災害に直面しても必要な調整事項を見出せるよう、実際の災害で目の当たりにする困難事例などを示される。内藤先生がお話になることは、先生自らが経験してきた災害での問題でもあり、優しい語り口でありながらも、臨場感のある場面が浮かび上がってくる。
 私も『災害医療コーディネーター研修』にはタスク参加しながら、災害時の連携について勉強させていただいているが、内藤先生のファシリテートはとてもリアルで、分かりやすい。それは、答えを教えてくれるのではなく、現状から受講者自身が最善をつくせるように促してくれる指導である。
 また、先生の最近の趣味は英会話とのこと。Skypeを利用してフィリピンに住む講師にレッスンを受けている。また家庭菜園にしては大規模な畑で、無農薬でいちごなどを栽培されたり、マラソン大会に参加されるスポーツマンでもあったりと、とても多才で魅力的な方である。
 
 内藤万砂文先生は長岡赤十字病院の前救命救急センター長として、中越地震や東日本大震災など、多くの災害現場で救護活動を指揮されてきた。
 2004年の中越地震、2007年の中越沖地震、そして頻繁に発生してきた洪水・土砂災害など、多くの災害で最前線に立ってこられた先生は、その経験から「指示を待つのではなく、自らが被災地に足を運んで医療ニーズを知ること」が非常に重要な初動のあり方であり、また「自らが体験した災害現場から医療のあり方を学ぶこと」によって、緊急時に地域の医療を守るための手法が確立できるとお話し下さった。

内藤先生と克美先生


 そして、「ある日突然訪れる大災害も、そのほとんどは発災1日目を乗り切れば何とかなるんです。その1日を乗り切るための“日頃の備え”と“顔の見える関係性”が必要なんですよ」と、関係機関が普段から地域の問題に連携していることの大切さを指摘されている。
 2006年に作られた新潟県災害医療救護マニュアルでは、2004年の中越地震の教訓から、被災地を所轄する保健所長が災害医療コーディネーターとなり、被災地の医療救援の窓口となって、被災状況の情報収集や医療全般の対応と連携調整を行うよう制定された。その体制により、新潟県中越沖地震では保健所長が災害医療コーディネーターとして医療調整の窓口となり、延べ80にもなる救護チームの調整を行った。


 そして東日本大震災では、甚大な被害に見舞われた石巻医療圏を中心に救護活動に携わった内藤先生は、自らの経験をもって現地の指揮者を支えてきた。
 2016年の熊本地震では、かつて無いほどの他職種の外部支援者が被災地にはいってきた。まさしく災害医療の新しい動きであったという。鍼灸師の団体も初めて医療調整本部に登録した活動を行っていた。
 外部から様々な医療関係者が支援に入ってくることに対して、当の被災地域医療者の心情を察することが出来るだろうか?
 膨大な医療ニーズを受けて、被災している地域資源を活用しながら急性期医療に取り組んでいる医療者も、自らが被災者であることを忘れてはいけない。あるいは家族の安否を気にしながら、また住まいの状況も分からないままで医療現場に貼り付いている現地支援者に対して、外部支援者はどのようにサポートしていくべきなのだろうか?
 「何でもやりますから申しつけて下さい」、「これ、こちらでやっておきますね」といった裏方的な実務をサポートする黒子に徹することで、被災地の支援者が普段から培ってきている「顔の見える関係」が最大限に発揮できるのだ。一番良くないのは外部支援者が理想論を掲げ、「〜は○○であるべきだ」「何故○○しないんだ」と“現地の支援者に指示していくパターン”だと、内藤先生は指摘されている。

 私たち、はりネット(鍼灸地域支援ネット)では、大規模な災害では被災地の鍼灸師が大きく被災することを想定し、発災直後からの支援活動によって地元住民の支持を得ながら、なるべく早期に被災鍼灸院の施術体制再建を模索している。その中で、行政や関係機関との普段からの連携を重視した「災害鍼灸マッサージ研修」を企画し、現在は京都府と滋賀県にてこれを開催している。


 私たち鍼灸師は、普段から医療行政や2次医療と連携していく機会はまず無いと言える。しかし、大規模な災害を想定した平時の対策の中で、少しずつ地域の医療との関わりが深くなってくるであろう。
 内藤先生は「普段から自分の関われることの集まりには、なるべく顔を出した方が良いですね。そのうち、地元の関係機関から顔と名前だけでなく、鍼灸という専門職は何が出来るのかを理解してもらえます。“普段からの繋がりで災害を乗りきる!”ってことです」と、助言をいただいた。災害が起きてからの対処よりも、普段から何らかの連携が出来ていることが最も大切なのだ。


 
 また、災害医療の現場では報道機関いわゆるマスコミの取材を、気持ちよく思わない支援者も多いが、マスコミも報道という支援活動を行っている仲間であるという認識を持ち、適切に情報を開示することで現場の志気も上がり、不可避とも思われる取材攻勢の軽減も出来るとのことである。

内藤先生・日赤


 内藤先生も、自らが最前線に立った災害において、時事ネタのスクープをつかもうとする記者に対して、全国に被災地の現状を伝える専門職として、敬意を持って対応されてきた。それにより、病院内外では医療業務に徹することができ、地域の不安も軽減されるというメリットが多かったという。
 今回、内藤先生のお話をうかがいながら、私たち鍼灸師にできる地域支援は、発災からの対応ではなく、普段から地域問題に関わる者同士が、共に問題解決に向けて取り組んでいることが重要であること。それがまさしく「顔の見える関係」であるということを実感することが出来た。

 このような貴重なお話しをいただいた後、内藤先生の行きつけの居酒屋である「魚吉」さんで、美味しい新潟のお酒と、旬の肴を頂戴しながら取材を締めくくることが出来た。酒も肴も絶品であったが、さりげない気配りをされる内藤先生と一緒に呑めたお酒は本当に美味しかった。
 また、鍼灸師の災害研修等で、内藤先生のお話しを聞ける機会を作りたいと思う。


NPO法人鍼灸地域支援ネット
理事長 日比泰広

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