『友と共に学ぶ東西両医学研修の会(TOMOTOMO)―
これは、17~18年前に医師と鍼灸師が一同に会して東西両医学について学ぶ会として発足したそうだ。そして、医療過疎地へ赴いてボランティアで施術をしたり等の活動を続け、大槌には5年前より通っているとのこと。
熊本の災害にも通われたそうだ。そこでご一緒になったのか、NPO鍼灸地域支援ネットのことはご存知だった。代表の石川先生は、鍼灸師の仕事が理解されないのは、鍼灸師自身が医療業界の中に出て動かないからだとおっしゃる。地域包括ケアシステムの中に参入出来ない唯一の医療者が鍼灸師であると。
確かに日鍼会本部の先生方もよくその危機を訴えられていた。それなのに、どうして、鍼灸師は動きが鈍いか?
医師会はしっかり機能している。上の先生が一喝すれば、隅々までその言葉は浸透する。しかし、鍼灸業界は、まず業界組織が一本化していない。大きな二つの他にもまだマイナーな団体があるらしい。まずは、そこからじゃないかと思った。そして、業界団体に入会していない一介の鍼灸師が大多数を占めている現状を変えていかなければならないと。
TOMOTOMO代表の鍼灸師、石川先生、クリニックの木村院長先生(医師)それからスタッフとして鍼灸師の先生方が数人、鍼灸学校学生さんが一人。
日程は11月4日午後3時~5時。5日は9時より終日。6日は9時~12時まで。
NPO鍼灸地域支援ネットとして、私は4日と6日のみ、そして、(一社)岩手県鍼灸師会より阿部会長、会員中村先生が6日に参加してくださった。
まず、集会所内を男女を分けるようにしっかりと区切り、受け付けを設営。
大槌の赤﨑先生がそれをご覧になって笑った。「藤沼先生は男も女もいっしょくたに診てたのに、やっぱり東京の先生方は違うな」と。
今まで、地域の方々は思い思いの時間に集会所を訪れ、お茶を飲みながら近所の方々や先生方と会話をされ、適宜呼ばれて施術を受ける。そんなシステムに慣れていた仮設の方々は、予約時間に関係なく次々といらっしゃり、一時受け付けはパニックのように混み合った。私は問診受け付けは一切タッチしなかったから、お忙しそうな皆さんの様子をただ眺めていた。
問診はものすごく徹底されていた。現病歴はもちろんのこと、就いていた仕事の内容や家族の病歴、主訴についても根掘り葉掘り。
そして、受け付けで一度聞いたことを施術される先生が一から確認し、更に詳しく聞いていく。施術前問診だけで30分程度はかけている。問診、視診、触診を駆使し、西洋医学的診断を導き、生活指導をしながら施術をする。
文句のつけようのない素晴らしさだ。私は普段から問診は軽く痛みや不都合部位を確認するのみで、あとは施術しながら世間話のような感じで情報を得ていく。
特に、こういう一期一会のような患者さんとは、カルテも取らないし、そのときの一番の主訴を取り除くことが主眼になっている。ボランティアによくご一緒してくださった岩手県鍼灸師会の前会長、駒嶺先生が、施術時間が15~20分と短く、とにかく次々と患者さんを診ていく先生だったので、被災地診療はそういうものだという認識だったのだ。
だけど、もう復興に向かっている東日本大震災の被災地域の方々。彼らはもう被災者ではなくて、復興に向かう一般の人々だ。今後ともここで生きていく人々だ。しっかりとした診断の上で今後の地域医療に委ねる材料を提示することは必要かも知れない。そういう医療に切り替えていく必要があるのかも知れない。
そういうことを深く考えさせられた。
患者さんも、「こんなにしっかり診てもらったのは初めて。来て良かった~」とおっしゃっていたのが耳に残っている。
2時間で9名の方を診たそうだ。私は、二人の患者さんをいつものやり方で施術したのみ。
施術終了後のカンファレンスは、なかなか勉強になった。
まず、一例目。
両膝を人工関節に手術した男性。83歳だったかな。手術は今年の7月。8月に退院。つまり3ヶ月経過している。現在の主訴は、左下腿裏腓腹筋の痛み(痺れ様症状)。
それでも、施術を担当された研修会代表の先生は、まず左膝の赤みに注目した。痒みがあるようで掻いているらしい。その部位に熱感もあり、感染を起こしている可能性がある、と。だから、もしも膝関節周囲に痛みを訴えられて不用意に施術し、万が一炎症が悪化したりしたら鍼灸のせいにされる。触ってはいけない、と。
検温をしても特に熱はない。ただ、経過観察は続ける必要がある。
感染症を起こし、それが皮膚症状から内部への炎症が進んでしまうと人工関節を取り外さなければならなくなる。開放状態で洗浄し、大変な手術になる。それは避けなければならない、と。
ただ、この赤み・熱感は術後の炎症である可能性もあり、感染は爪から引き起こされるので、指の腹で掻いてください、と指導する必要がある。
更に、仰臥位で左下腿に振戦が起こる。病的反射陽性。腱反射亢進。ご本人からの申告はなかったが、「脳梗塞興したことあります?」と聞くと「ある」。
脳梗塞の危険性も注視していく必要あり。タバコはやめたとご本人はおっしゃっているが、タバコ臭い。
それから、二例目。
腰痛の患者さん。脊際と仙骨脇に縦に圧痛点が並び、筋肉に痛みがない。何故でしょう?
この患者さんは実は鎮痛剤を服用している。そのために正確な反応が取れない。風邪薬でも似た現象が起こる。
カンファレンスの症例は時間の関係で、私がいる間はその2例だけだったが、恐らく、そういう特殊な症例をわざわざ外部の会員外の私ために見せてくださったんだろうと思う。残りはホテルに戻り、夕食後に続けるそうだ。
なかなか素晴らしい研修グループさんだと感心した。そうやって鍼灸師の目を、腕を、磨いていくんだろう。心より感銘を受ける。医師とハナシが通じるように、医療業界に参入していくために。共通言語をしっかりと学び、共に医療の世界を担っていく一員として認めてもらうために。
日曜日、岩手県鍼灸師会の会長と石川先生が言葉を交わし、いろいろお話しされていた。その日は、だいたいが3日目の患者さん達だったので、我々は新患さんを一人担当したのみ。ほとんどはTOMOTOMOのスタッフの先生方が対応された。
途中、地元新聞の記者さんが取材に見えられた。
代表の石川先生がおっしゃっていた夢はほんとうに業界全体の危機感でもある。医者と共通言語を、というのは今後は当然のこととして要求され、それに満たない我流の鍼灸師は生き残っていけない時代がすぐやって来ることだろう。団体に所属している先生ですら、外に出てその厳しい現状を知らない方は危機意識が薄い。まして、団体に所属していない一介の鍼灸師は気付いたら患者さんを失っていた―という時代はすぐそこだと思う。
予定されていた患者さんを終了し、撤収。片付けが終わって手作りのヨーグルトを皆でいただき、一息ついたところで、木村先生と石川先生は旅館へ最後の患者さんを診に戻られ、他の方々が掃除等を始められた。
最後に、支援員さん、赤﨑先生の奥様と挨拶を交わし、横浜からいらした先生方にお礼を述べて、私たちも帰途に就いた。
なかなか、刺激的な経験だった。
ありす鍼灸治療院/藤沼 敦子